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福井地方裁判所 昭和41年(行ウ)3号 判決 1969年5月23日

原告 高橋武夫

被告 福島伊平

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の申立、主張および証拠の提出援用認否は、すべて別紙「要約書面」と題する書面のとおりである。

理由

一、請求原因一、二(1)、同(2)、三の事実は当事者間に争いがない。

二、そこでまず請求原因二(3)の主張について考えてみる。

成立につき争いのない甲第一号証、第二号証、第五号証の三、四、九、一〇によれば、原告が主張する右の各訴(以下前訴という。)は、原告が訴外今庄町に代位して個人としての被告をして訴外今庄町に対し、違法な予算執行によつて得た利得を返還させることを目的としたものであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

したがつて右訴外今庄町の町長としての被告に対して予算の執行行為である同項記載の各金員の支出行為を違法な予算の執行であるとして取消を求めた訴は、右不当利得の返還を求めるためのいわゆる前提問題にすぎないものであつたと解される。そうすると、右取消訴訟を提起しないで単に個人としての被告に対してのみ、不当利得返還請求を提起すれば、その目的を達することができたものということができる。しかしながら、前訴において原告が右取消訴訟を右の不当利得返還訴訟と併合して提起した以上、当時訴外今庄町の町長であつた被告は、個人としての資格における被告とは別個に訴外今庄町の代表者としての資格においてもこれに応訴せざるを得ないものであつたといわなければならない。してみれば、訴外今庄町の町長としての被告の応訴費用を右訴外町が負担することには何らこれを違法とすべきいわれはない。

三、次に、請求原因二(4)記載の主張を考えてみよう。

成立に争いのない甲第五号証の二ないし一一によれば、前記応訴費用の受領者である訴外弁護士斎藤実は、前訴において、町長としての被告および個人としての被告双方の訴訟代理人として、訴訟行為をしたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。しかして右の応訴費用金三〇万円の内、個人としての被告の応訴費用の占める割合がいくばくかを認めるに足る証拠はない。また、そうだからというだけで原告が主張するように、右金三〇万円の内金一五万円が個人としての被告の応訴費用であると推認すべき合理的な根拠もない。

四、次に、訴外今庄町が訴外弁護士斎藤実に支払つた右金三〇万円の弁護士費用が町長としての資格における被告の応訴費用として不当に高額なものであつたか否かを検討してみる。

前掲甲第五号証の一一によれば、前訴は機関たる今庄町長に対し右町長が合計金一四四万円の予算の執行として行つた支出行為の取消を求めた行政訴訟事件であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。そして、当裁判所に明らかな日本弁護士連合会の報酬等基準規程によれば、「行政訴訟事件の手数料・謝金等は、民事事件の一般の場合を準用する。民事事件の目的物の価額が算定できないものは、依頼者の受ける経済上その他の利益を目的物の価額とみて、右を基準にして算定する。」旨定められている。しかして前訴により今庄町の機関としての資格で応訴した被告が受ける利益は、合計金一四四万円の予算の執行が公正に行われたことが裁判所により確認されるところにあるというべきである。しかして、右の訴訟における今庄町長の利益を金額で現わそうとすれば、その価額は金一四四万円と考える外はない。そうすると、今庄町長から右の訴訟事件を受任した訴外弁護士斎藤実の手数料・謝金等は右の金一四四万円を基準として算定しても不当ではないというべきである。しかして金一四四万円を基準にして前記報酬等基準規程を適用して、右に対する手数料・謝金等を算定してみると、それぞれ一三〇、八〇〇円以上三八八、〇〇〇円以下となり、更に同様にして福井弁護士会会則を適用してみると、手数料は一四二、八〇〇円以上、謝金は一七三、五〇〇円以上となることは計数上明らかである。しかして、前掲証拠によれば、前訴は今庄町の勝訴に終つたことが認められる。してみれば、訴外今庄町長が支出した右金三〇万円は前訴における機関としての被告今庄町長の代理人である弁護士斎藤実に対して、同人が訴訟活動をしたことにより生じた手数料及び謝金を包含した応訴費用であるということができ、その額も妥当なものであるということができる。

五、そうすると、結局、訴外今庄町が前訴において個人としての被告の応訴費用を支払つたということはできないから、原告の請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

よつて、原告の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 天野正義 高橋爽一郎 多田周弘)

(別紙)

要約書面

原告

(求める裁判)

一、被告は、南条郡今庄町に対し金三〇万円およびこれに対する昭和四一年一一月五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする

との判決および第一項につき仮執行の宣言。

(請求原因)

一、原告は南条郡今庄町の住民である。

二、(1) 被告は南条郡今庄町の町長をしていたものであるが、その在任中、昭和四〇年度一般会計追加更正予算の執行として、福井市西宝永町二丁目一一〇八番地弁護士斎藤実に対し、いずれも報償金として、同年七月六日に金一〇万円を、同年一〇月一八日に金一〇万円を、同年一二月二日に金一〇万円を支払つた。

(2) ところで、右報償金はいずれも原告および訴外東正三が今庄町を代位して今庄町町長(当時被告が在任していた)および被告個人を相手として提起した福井地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第一号及び第二号行政処分取消等請求事件の被告の応訴費用であるが、右行政処分取消等請求事件は、今庄町町長としての被告に対し、被告今庄町町長が昭和三五年度一般会計歳入歳出追加更正予算の執行として、町長欧米視察費名目でした金六〇万円の支出および同三九年度一般会計補正予算の執行として町長ソビエト視察旅行費名目でした金五四万円の支出の各取消を求め、個人としての被告に対し、被告は、右各金員を今庄町に返還せよとの判決を求める訴であつた。

(3) 右(2)の各訴は、いずれも実質的には被告個人を相手としたものといえるから、応訴費用はすべて被告個人が負担しなければならないものであり、本来原告たるべき今庄町が報償金名下に被告の応訴費用を負担するというようなことはあり得るべからざるものである。従つて、前記報償金の支出は違法である。

(4) 仮りに右(3)の主張が容れられないとしても前記報償金三〇万円のうち、半額である一五万円は被告個人の前記応訴費用であり、今庄町町長たる機関としての被告の応訴費用とは区別されるべきであるから、前記報償金中一五万円の支出については違法たるを免れない。

三、そこで原告は同四一年五月二〇日今庄町監査委員に対し、前記報償金の支出について監査請求を行つたが、同委員は、同年七月一五日原告に対し書面をもつて、被告の前記報償金支出行為は不当とは認められない旨の回答をした。

四、(1) 以上のように、被告は自己が支払うべき金三〇万円を今庄町に支払わせ、同金額につき不当利得し、右利得は現に存在するものであり、被告は右支出が自己に支払義務のあることを知つていたいわゆる悪意者である。

(2) 仮りに然らずとするも、前記報償金を支出した当時、今庄町町長の職にあつた被告は、右報償金の支出が違法であることを知りながら、或いは当然知るべきであるのにこれを知らずして、右報償金の支払をしたものである。

五、よつて原告は、今庄町を代位して、第一次的請求原因を不当利得による返還請求とし、第二次的請求原因を不法行為による損害賠償請求として、「被告は南条郡今庄町に対し、金三〇万円およびこれに対する弁済期の後である昭和四一年一一月五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求める。

(証拠省略)

被告

(求める裁判)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

(答弁)

一、認める。

二、(1) 認める。

(2) 認める。

(3) 争う。被告は今庄町議会が同四〇年度一般会計追加更正予算として、原告主張の報償金合計三〇万円の歳出を議決したので、右議決に基づいて原告主張の各支出をしたもので、右各支出はなんら違法でない。また右(2)記載の各訴は機関たる町長の行政処分の違法を争うものであり、その応訴費用を町が負担するのは当然である。

(4) 否認する。原告の主張する報償金三〇万円はすべて機関としての今庄町町長たる被告の応訴費用として支出したものである。

三、認める。

(1) 争う。

(2) 争う。

(証拠省略)

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